大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福井地方裁判所 昭和47年(ワ)207号 判決 1976年3月16日

原告

福田早苗

被告

セキサン工業株式会社

ほか一名

主文

一  被告富田保雄は原告に対し金五六二万四、四九八円及び内金二一八万六、三〇〇円に対する昭和四七年九月二八日より、内金二〇三万一、六一四円に対する昭和四九年一〇月二日より、内金八〇万六、五八四円に対する昭和五〇年五月三〇日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告富田に対するその余の請求及び被告セキサン工業株式会社に対する請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告富田との間においてはこれを三分しその一を原告の、その余は被告富田の負担とし、原告と被告セキサン工業株式会社との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金六三四万二、〇二四円及び内金二一八万六、三〇〇円に対する本訴状送達の翌日より、内金二〇三万一、六一四円に対する昭和四九年一〇月一日受付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より、内金二〇九万八、〇〇〇円に対する昭和五〇年五月二九日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日から、内金二万六、一一〇円に対する昭和五〇年七月八日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告富田保雄は原告に対し金四万四、五〇〇円及びこれに対する昭和五〇年七月八日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用被告負担。

4  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  請求棄却

2  訴訟費用原告負担。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  原告は次の交通事故に因つて傷害を受けた。

(一) 日時 昭和四六年八月二九日午前七時四〇分頃

(二) 場所 福井市長本町三〇の二八先県道交差点

(三) 事故車々種 一一屯積三菱ダンプカー、登録番号福一せ四三九一号

(四) 運転者 被告富田保雄

(五) 被害者原告の事情

訴外広田一徳運転にかかる六福井す八六七三号スズキ軽ライトバンに同乗し、前記交差点で信号待ちのため停車中(進行方向東、勝山方面)

(六) 事故の態様

(1) 事故区分 追突

(2) その具体的内容

被害者原告が前記自動車に同乗して勝山方面に向け東進中、前記交差点に差しかかつたところ信号が赤になり自動車が停車していたのでその後に停車し信号待していたところ、被告富田運転の前記ダンプカーが突然前記ライトバンに追突してきた。

(七) 受けた傷害の内容

(イ) 右第Ⅱ~Ⅷ肋骨々折

(ロ) 左第Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ肋骨々折

(ハ) 右外傷性血胸

(ニ) 右前腕骨々折

(ホ) 頭部及左前腕部挫創

右傷害のため原告は昭和四六年八月二九日より昭和四七年一月一七日まで福井県立病院に入院加療、昭和四七年一月一八日より同年一二月二八日まで木村病院に入院加療後昭和四九年一二月二四日まで同病院に通院加療(実通院日数五五七日)

二  帰責事由

(イ) 被告セキサン工業株式会社は、加害車を自己の業務用に使用し自己のため運行の用に供していたものであるので自賠法第三条に基づく責任(詳細は別紙のとおり)、

(ロ) 被告富田は、前方注視を怠つた過失により本件追突事故を惹起したので民法第七〇九条に基づく責任、

にもとづきそれぞれ本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

総計 金六三八万六、五二四円

内訳

(一) 金二万六、一一〇円

手術治療のため荒川整形外科医院入院代

(二)イ 金一六〇万七、一〇〇円

昭和四六年八月二九日より同四七年一月一七日まで福井県立病院へ、同月一八日より同年一二月二八日まで木村病院へそれぞれ入院、通算四八七日間の慰藉料(一月三、三〇〇円)

(但し、A昭和四六年八月二九日より同四七年八月三一日までの三六八日分一二一万四、四〇〇円、B昭和四七年九月一日より同年一二月二八日までの一一九日分三九万二、七〇〇円の合計)。

ロ 金五五万七、〇〇〇円

昭和四七年一二月二九日より同四九年一二月二四日までの間五五七日間、前記木村病院通院期間中の慰藉料(一日一、〇〇〇円)、

(但し、A昭和四七年一二月二九日より同四九年四月三〇日まで三七九日分三七万九、〇〇〇円、B昭和四九年五月一日より同年一二月二四日まで一七八日分一七万八、〇〇〇円の合計)。

(三) 金一四万六、一〇〇円

右(二)のイ四八七日間の入院雑費(一日三〇〇円)(但し(二)のイ同様、A三六八日分一一万〇、四〇〇円、B一一九日分三万五、七〇〇円の合計)。

(四) 金八万二、八〇〇円

昭和四六年八月二九日より同年一〇月一日まで及び同月一三日より同年一一月一七日まで通算六九日間の付添料(一日一、二〇〇円)。

(五)イ 金一五二万六、四三〇円

昭和四六年八月二九日から同四七年一二月三一日までの間(四三八日間)の休業補償(一日三、四八五円)(但しA昭和四六年八月二九日より同四七年八月三一日まで三一六日分一一〇万一、二六〇円、B昭和四七年九月一日より同年一二月三一日まで一二二日分四二万五、一七〇円の合計)。

ロ 金二六万九、七九六円

昭和四八年中一か月二万二、四八三円の割合による逸失利益。

ハ 金二六万九、二四八円

昭和四九年一月より四月まで一か月六万七、三一二円の割合による逸失利益。

(逸失利益について)

原告は大工であり、訴外福井市花月三丁目五の一五丸文建設こと谷口文男に雇われていたものであるが、昭和四六年五月一日より同年七月三一日までの間において八〇日間勤務し、社会保険料差引のうえ合計金二七万八、七七二円の給与を受けている。従つて原告の日給は一日金三、四八五円(円以下四捨五入)、而して原告は昭和四六年八月二九日より同四七年一二月三一日までの間、公休等を除き出勤可能の日は少くとも四三八日であつたから原告は本件受傷によつて右四三八日間一日金三、四八五円の割合による得べかりし利益を失つた。

そして後記の上昇に伴い昭和四八年中においては一日金四、〇〇〇円一か月金一〇万円、同四九年中においては一日金六、〇〇〇円一か月金一五万円の大工手間を稼得できた筈である。

然るに本件受傷により結局一人前の大工として働くことができないので昭和四八年一月七日より訴外株式会社木谷製作所に勤務し軽労働に従事しているが、昭和四八年中における一か月平均所得は七万七、五一七円、同四九年中における一か月平均所得は八万二、六八八円にしかならないので、原告は昭和四八年中においては毎月前記得べかりし一か月平均一〇万円の所得との差額金二万二、四八三円の、昭和四九年中においては同様金六万七、三一二円の各割合による得べかりし利益を喪失した。

(六) 金一六五万円

後遺症(第七級)に対する慰藉料(但し自賠責保険より後遺症慰藉料及逸失利益として受領した金二〇九万円以外の金額である)。

(七) 金二万一、八四〇円

腕時計、カツターシヤツなど着衣損料。

(八) 金四万四、五〇〇円

本件事故により大工道具を紛失し、そのために蒙むつた損害(但し被告富田にのみ対し)。

(九) 金八三万円

弁護料。

四 損益相殺

原告は本件損害金の内、被告富田より左記のとおり合計金六四万四、四〇〇円の支払を受けている。

(1) 昭和四六年九月 金一〇万円

(2) 同年一〇月 金五万円

(3) 同年一一月 金五万円

(4) 同年一二月一三日 金一〇万円

(5) 同年一二月三一日 金一〇万円

(6) 昭和四七年三月二六日 金一〇万円

(7) 同年六月五日 金五万円

(8) 同年六月二六日 金六万〇、一〇〇円

(9) 同年八月三〇日 金三万四、三〇〇円

合計 金六四万四、四〇〇円

五 よつて原告は被告らに対し金六三四万二、〇二四円及び内金二一八万六、三〇〇円(右三項の(二)イA、(三)A、(四)、(五)イA、(七)、(九)のうち三〇万円の合計より第四項を差引いた金額)に対し本訴状送達の翌日より、内金二〇三万一、六一四円(右三項の(二)イB、(二)ロA、(三)B、(五)イB、(五)ロ、(五)ハ、(九)のうち二六万円の合計)に対し昭和四九年一〇月一日受付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より、内金二〇九万八、〇〇〇円(右三項の(二)ロB、(六)、(九)のうち二七万円の合計)に対し昭和五〇年五月二九日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より、内金二万六、一一〇円(右三項の(一))に対し昭和五〇年七月八日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに被告富田保雄に対し金四万四、五〇〇円(右三項の(八))及びこれに対する昭和五〇年七月八日付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日より右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める次第である。

(請求原因に対する答弁及び被告の主張)

一  請求原因中一項は認める。

二項(イ)は否認、(ロ)は認める。

三項は争う、尚大工道具の散逸に関する損害は本件事故と相当因果関係になく、その余の物損についても自賠法第三条の規定の働く余地はない。

四項は認めるも、他に原告が受領した強制賠償保険金二〇九万円は全額損益相殺の対象とされなければならない。

二  被告セキサン工業株式会社は、被告富田保雄との間においては固より訴外富田和雄との間においても専属的請負契約を締結した事実はなく、右富田らにおいていつ何処の仕事に従事するも自由な関係にあつた。さればこそ、当時被告富田は相当の長期に亘つて他人の仕事に従事していたのであつて、専属的業者でありながらその合間にいわばアルバイト稼ぎとして他の仕事に従事したというケースとは全くその趣を異にする。また車体の車名表示も業者の任意に委ねられ、被告会社がこれを強制したものではない。その他諸般の事情に鑑みても、本件事故当時被告会社が本件車両の運行につき支配権や利益を有していたものとは到底認め難く、被告会社に対する本訴請求が根本において失当たるを免れないものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因事実中一項及び二項(ロ)については両当事者間に争いはない。

二  次に、被告セキサン工業株式会社(以下被告会社と略称)の責任について判断する。

成立に争いのない甲第二・第九号証、第一八号証の一ないし四乙第一・第二号証、証人石田喜久三、同森末治、同山口健二、同遠藤昭彦の各証言、被告富田保雄本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

被告富田保雄の兄である富田和雄は昭和四三年五月頃より被告会社と砂利運搬のための継続的請負契約を締結し、被告保雄と共に右運搬事業に従事して来た(昭和四四年には更に弟覚太郎が加わつた)が、契約の当事者は訴外和雄であつて運送料金は原則として一か月に一回宛右和雄に対し支払われており、形式上保雄は和雄の使用人ということになる。然し、計算は各人(各車両)ごとになされており、又実際は右兄弟のうち誰かがまとめて被告会社より受取つていた。

本件車両は右契約に際して訴外和雄が訴外福井モータースから所有権留保付割賦販売契約により購入したものであるけれども、同人に信用がないため名義上の買主を被告会社とし、右割賦代金の支払方法は右和雄が被告会社の裏書のある手形を振出し毎月の運賃の中から被告会社において和雄の取引銀行に振込んで決済して来た。右代金は昭和四六年一月二五日を以て完済されたが、本件事故時はもとよりそれ以降も名義の切替はなされていない。従つて又、被告会社の直営の自動車と同様カーキ色に車体を塗りその上に黒色で「セキサン工業」と表示してあつた(本件事故後の車検の際小さく書直した)。

同車の自賠責保険の加入者名義は被告会社となつており、右保険料も運送賃より差引いていた。尤も任意保険については加入は自由であり、和雄は事故当時入つていなかつた(但し事故後加入した)。燃料代金については被告会社より出された「セキサン工業傭車」と記載されたチケツト(出光石油)を使用し、概ね被告会社と同系統の三谷商事より購入し、少くともその分は被告会社において運賃より差引いていた。被告保雄は同車を概ね自宅に持帰つていたが稀に被告会社内においておくことも認容されていた。そして被告会社の勝山工場の砂利運搬は全部傭車に頼つており事故当時は約二〇台であつた。

ところで、被告保雄は和雄と共に当初は被告会社の仕事を殆んど専属的に行なつていたが次第に頼まれ仕事などが増加して来たため他業者などの仕事もするようになり、昭和四五年一一月以降についてみれば同じく傭車仲間である訴外岩岡嘉行に比すれば本件事故時までは半分以下の稼働率であつた。尤も冬期間は被告会社の仕事が少いため一般に許可を得て他会社の仕事をすることも認められていたが、被告保雄は昭和四六年一月中旬より四月中旬まで、兄和雄にも断わりなく弟その他の傭車仲間と共に被告車にて横浜の山崎組の資材運搬の請負に従事していた(前記岩岡は右二・三月にも相当稼働している)。そして同年七月二六・七日頃から本件事故まで専ら訴外勝山電化のフエロシリコン輸送に従事し、その業務中に本件事故を惹起したものである。右勝山電化の仕事は、七月被告車の車検終了後当時は比較的ダンプの仕事がなく少くとも被告保雄に対しては被告会社の仕事がなかつたため保雄より右訴外会社の専属下請業者である訴外山口健二に依頼して車持込みにしてもらつたものであるがその間と雖も前記岩岡はもとより保雄の弟も被告会社の仕事をしていた。

被告会社と訴外和雄、従つて又被告保雄との運送契約の内容は必らずしも明らかでないが、季節ないしは景気変動的事情もあつて所謂丸抱え拘束的なものではないと認められるところ、結局保雄は他の傭車に比較して前記の如く従前より他社の仕事に従事することが多かつたため夏季の閑暇時には他の、より専属的に従事している者に優先的に仕事が与えられるということもあつて、結局保雄において、より水揚げの多い訴外会社の仕事をするに至つたことが窺われる。尤も本件事故後は保雄は勝山電化の仕事をやめ再び被告会社の仕事に従事し、現在は実際は兄和雄に代わつて殆んど専属的に同社の仕事をしている。

してみれば、本件自動車を事故当時被告会社の業務に使用するか否かは、たしかに被告会社側の事情も関与していない訳ではないが、被告保雄の自由意思にかかわるところが大であり、被告保雄と被告会社との間には通常の使用・被用者に比してはもとより他の傭車仲間に比しても、より専属的関係従つて従属的拘束的な対人的支配関係が稀薄となつていたと認めざるを得ず、そして正にかかる事情の下において可成り長期に亘り他社の仕事に従事中に発生した事故であつてみれば、かりに抽象的一般的には被告会社が被告車に対する運行支配及び運行利益を有していたとしても少くとも本件事故時においては被告会社の本件車両に対する運行支配(利益も含めて)は喪失されていたと認めざるを得ず、本件事故につき被告会社に対し運行使用者責任を問うことはできないものと判断する。

三  損害

1  (診療関係費)

イ  手術料

成立に争いのない甲第一九号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四九年一〇月荒川整形外科医院にて本件事故による手術の際骨折部分に入れた金具を取出すため手術し、右費用として金二万六、一一〇円支出したことが認められる。

ロ  付添費

原告本人尋問の結果によれば、争いない入院期間中重傷のため医師の指示により原告の妻が原告主張のとおり昭和四六年八月二九日より同年一〇月一日まで及び同月一三日より同年一一月一七日まで(通算六九日間)付添つたことが認められるのでその費用は一日一、二〇〇円として原告主張の金額たる金八万二、八〇〇円は相当である。

ハ  入院雑費

前記争いない入院期間(四八七日)中の雑費としては計算の便宜上一日平均三〇〇円の割合にて金一四万六、一〇〇円が相当である。

2  (慰藉料)

イ  入通院慰藉料

成立に争いない甲第二・四・五・一〇・一五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の傷害は相当重傷であつたことが認められるので、前記争いなき入院期間(四八七日)中の慰藉料は金一三二万円、通院期間(実日数五五七日)中のそれは金五五万七、〇〇〇円が各相当である。

ロ  後遺症慰藉料

甲第一五号証、第二一号証の一・二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記療養後も全快しないので昭和五〇年三月二九日金沢大学医学部附属病院にて林医師の診断を受けた結果、頸部・腰部の運動制限が強く、両下肢・左上肢知覚障害も認められ回復の見込なく、軽易な労働にしか服しえない旨診断を受け、自賠責保険よりも七級相当と認定され、現在尚骨折のため背中・胸が痛み頭痛も激しく現在勤務している木工の仕事も時々休まねばならない状態にあることが認められる。尤も原告は自賠責保険より後遺症慰藉料(八四万円)及び逸失利益として金二〇九万円の支給を受けていること争いがないけれども、前記認定の如く相当長期の入通院後の症状固定であることを併せ考えると右慰藉料としては自賠責保険支給分の外、更に金一六五万円が相当であると認める。

3  (逸失利益)

イ  原告本人尋問の結果及び右により成立が認められる甲第七号証の一・二、第一二ないし第一四号証によれば、原告は大工として事故前は丸文建設に勤めていたものであるところ、昭和四六年当時における大工の日当が一日三、五〇〇円であつたことを併せ考えると事故前三か月間の収入は金二七万八、七七二円(稼働日数八〇日)であつたことが認められるので一日平均三、四八四円(小数点以下切捨)となるところ、本件事故により昭和四六年八月二九日より同四七年一一月三一日までの間計四三八日間休業したことが認められるので右休業損害は金一五二万五、九九二円となる。

ロ  前掲各証拠によれば、その後結局本件事故により重労働は不可能となつたので、止むなく昭和四八年一月七日より訴外株式会社木谷製作所に木工として勤務、軽労働に従事し、昭和四八年より昭和四九年四月までの間月平均七万八、八〇九円(小数点以下切捨)の収入を得ていることが認められるが健康な大工であれば昭和四八年以後控え目にみても少くとも日額四、〇〇〇円一か月稼働二五日として月平均一〇万円の収入を得られたことが認められるので右差額月平均二万一、一九一円、昭和四九年四月まで一六か月合計金三三万九、〇五六円の得べかりし利益を失つたこととなる。

4  原告本人尋問の結果及び右により成立が認められる甲第八号証によれば、原告は本件事故により腕時計・ビニール靴その他甲第八号証に記載の衣類を使用不能とされたことが認められ、右は身体と一体として所謂着衣損傷であり、その他車内にあつた予備の長靴・茶ズツク靴(合計金一、二五〇円)も本件事故による物損であり、右合計金額は金二万一、八四〇円であると認められる。

5  原告主張の大工道具類の紛失損害は、右道具類が原告本人尋問の結果によるも、事故当時赴く予定の作業場に置いてあつたものであり、右事故のため結局取りに行けないうち紛失したというのであつてみれば、右紛失損害は本件事故とは相当因果関係を欠くものという外はない。

6  よつて原告の損害は合計金五六六万八、八九八円となるところ、原告は被告富田保雄より計金六四万四、四〇〇円の支払を受けていること両当事者間に争いがないので右を差引くと金五〇二万四、四九八円の損害額となる。

7  弁論の全趣旨によれば、原告は被告富田において任意に支払わないため止むなく本件訴訟を提起したことが認められるところ、事案の性質に鑑み右弁護士費用としては金六〇万円が相当である。

ところで原告は請求の趣旨並びに原因記載の如く順次請求を拡張しているのであるが、不法行為による損害賠償請求の訴訟物は人損については一個であると解せられるので、結局前記損害額は費目の如何を問わないで順次その請求額に充つるまで認容して差支えない。

してみれば原告の被告富田に対する金五六二万四、四九八円及び遅延損害金を付するのが相当でない弁護士費用を除き内金二一八万六、三〇〇円(4の中の物損一、二五〇円を含む)に対しては被告富田に対する訴訟送達の翌日である昭和四七年九月二八日以降、内金二〇三万一、六一四円に対しては昭和四九年一〇月一日受付請求の趣旨拡張申立書送達の翌日である同月二日以降、内金八〇万六、五八四円に対しては昭和五〇年五月二九日付請求の趣旨拡張申立書陳述(第一〇回口頭弁論)の日の翌日たる昭和五〇年五月三〇日以降それぞれ完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容することとし、その余の部分及び被告セキサン工業株式会社に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川田嗣郎)

別紙

第一点 自賠法第三条に所謂「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)とは、その自動車について運行支配権をもち、かつその運行利益が自分に帰属する者のことであり、運行支配又は運行利益の事実が一〇〇%認められれば運行供用者と認定するのが相当であり、一方の要素だけで不足のときは他の要素でこれを補い運行供用者を認定すべきであると信ずる。

第二点 右見解に立脚して本件の場合を考えて見ることとする。

本件証拠調の結果

(イ) 被告会社は、昭和四三年五月ごろ訴外富田和雄との間に勝山工場で生産される砂利を継続して運搬するため、一立方米いくらと言う約定で運送契約を締結し(運送の請負契約)右富田は右契約を履行するため被告会社へダンプカー三台を持ち込んで砂利運搬を請負つていた事実。

(ロ) 被告富田保雄は右ダンプの内一台を運転していた事実。

(ハ) 被告会社はその製品の九五%を右同様の契約で第三者に運搬させている事実。

(ニ) 右富田が右各持込車を月賦で購入するについて、被告会社は被告会社名義で購入することを承諾し、且つ右月賦代金の支払方法として被告会社の手形を発行していた事実。

(ホ) 自動車を運行するガソリンその他オイルの取替などについては、被告会社と同一資本系統の訴外三谷石油販売株式会社のチケツトを発行し、右会社経営又はその系列のスタンドで購入せしめている事実並びにタイヤの取替修理なども被告会社の名義を使用させている事実。

(ヘ) 三谷一族は三谷商事株式会社を中軸とし、被告会社の外、敦賀セメント株式会社、三谷石油販売株式会社などを経営し福井県下において一種のコンチエルンを形成している事実。

(ト) 自動車購入のための月賦金ガソリン代などは運送代金が支払われる際チエツクオフされている事実。

(チ) 右富田和雄は貨物運送について道路運送法第四条所定の免許を有しないものであるから、自己の製品又は商品を運送することが出来るだけであり、第三者の製品又は商品は運送出来ないので、被告会社はこれを可能にするため、自己の名で自動車損害賠償責任保険契約を締結し自動車のボデイに「セキサン工業」と記載すること及びボデイの色をセキサン工業のシンボルカラーであるだいだい色とすることを承諾し、右富田持込に係る各ダンプをあたかも被告会社自身が自家用車として使用しているかの如き外形を作りもつて闇運送を可能にした事実並びに右富田が希望すれば、被告会社名義で任意保険に加入し掛金を立替払いしていた事実。

(リ) 前記チエツクオフの関係及び右の関係があるので右富田としては、他に有利な仕事があつても少くとも常時一台乃至二台位は被告会社の仕事に従事させなければならない関係にあつた事実。

をそれぞれ認めることが出来るし、

(ヌ) 被告会社は、右富田らと砂利運搬について前記の如き請負契約を締結して運搬業務に従事させることにより

(一) すべての製品を、自社のトラツクを使用して運搬するのに比較して経費の点できわめて有利であること(自動車購入代金について資金繰は不要であり、人件費の節約にもなる。労災保険・社会保険など掛ける必要がない)。

(二) 労働問題を回避出来る点で有利であること。

(三) 正式に免許を有する運送業者に運搬させるよりも運賃がきわめて安いこと。

(四) 被告会社と姉妹会社である三谷石油販売株式会社が右富田らに対するガソリン類の販売によつて多額の利益をあげていること。

が推断出来る。

以上の事実よりするときは本件事故を起した本件一一屯積三菱ダンプカーについての被告の支配関係は一〇〇%に近いものであり、被告会社が利益を得ている事実とあわせ考えるならば被告会社は右自動車の運行供用者であると言わねばならない。

尤も本件事故当時被告富田が被告会社の砂利を運搬していなかつた事は事実であるが

(イ) 本件事故後も被告富田は被告会社の砂利運搬業に従事している事実。

(ロ) 本件事故当時本件トラツクの使用者名(実質上の所有者)が被告会社であつた事実。

(ハ) 前記チエツクオフの関係が存在していた事実。

(ニ) 本件運送請負契約は本件ダンプを含め、三台についてなされており、本件ダンプだけを切り離して被告会社と富田和雄との関係を処理出来ない事実。

よりすれば、本件事故時における被告会社の本件自動車に対する支配関係並びに運行利益関係を否定することは出来ない。何故かなれば、前記契約は継続的運送請負契約であるから本件事故前事故後を通じ継続した一体の法律事実として観察すべきであり、一時点をとらえて判断すべきではないからである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例